使わなければならない台詞
1 「ここは俺に任せて先へ行けッ!」
2 「生まれる前から愛してました」
3 「約束して……必ず、帰ってくるって」
4 「これが……運命」
5 「俺をその名で呼ぶな」
6 「離れていても君の事は忘れない」
7 「馬鹿な、この私が負ける、というのか!?」
8 「大人って汚い」
9 「残念だったなぁ?」
10 「ここはどこ? 私は誰?」
11 「待て、金か!? 金なら出す!」
12 「お前では……私を倒すことはできん」
13 「○○(人名など)、後は任せた」
14 「最高のほめ言葉だよ」
15 「今こそ見せよう! 真の力を!」
16 「あんたなんか、人間じゃないッ!」
17 「何があろうと、君だけは守るよ」
18 「貴様の相手はこの俺だ!」
19 「もう誰も信じない……!」
20 「女は神秘の生き物なのよ」
21 「どこにこんな力が……!?」
22 「気安く触るな」
23 「父さんは星になったのよ」
24 「神様なんていない」
25 「認めん! 認めんぞぉ!?」
26 「かわいいわね、坊や」
27 「貴方の顔をもっとよく見せて」
28 「この命、燃え尽きるまで!」
29 「これで、終わりだッ!」
30 「僕たちの冒険はこれからも続く」(冒険に代えて、「旅」「物語」などでも可」
※一人称、二人称の変更は可。
※語尾の変更は良いものとする。
※「……」「ッ、ぉ、ぃ」などのニュアンス、「!」「!?」「?」の変更は可。
コテコテですね?ベタベタですね?
使われるシーンがイメージできないものは一つもないですね。
よーく、よーく、確認しましたね。
いや、イラストもムービーも無くこんなのテキストだけでお見せしてもつまらないですからね。
準備はOK?
それでは…
『あすくり』 天戸 司郎
その日、登校するとボクの席に知らない人が座っていた。
そいつは机の上に足を投げ出して天井を見上げてたが、オレに気付いてこっちを向いて……
「残念でしたねぇ男子A」
ちょっと待て。
「男子Aっていうのはオレのコトか?」
彼は黙って頷く。うっとうしいくらいに長い前髪に隠れ、表情が見えない。
顔の半分を埋め尽くす前髪を睨みながら必死に記憶を探るが誰だか思い出せない。
「ところであんた、誰だっけ?声だけじゃ思い出せないや、あんたの顔をもっとよく見せてくれない?」
「それは製品の仕様で出来ません、そして男に名乗るような名前は持っていません」
製品の仕様って何だよ?……やっぱり見たまんま、危ない人なのか?
「それで、残念って何?何が残念なんだよ?」
「残念だというのは、私が来たという事です、分かりますか?男子A?」
「いや、全然わからない」
「……つまり、私は見ての通りに主人公で、キミに成り代わるためにここへ来た、という事です」
「すまない、いまいち理解できないけど……」
頭がクラクラする。相当に危ない相手のようだ。対処方法を変えよう。
「つまりあんたは生粋のギャルゲー主人公で、名前さえまだ決まっていないと、そういうこと?」
「理解が早くて助かる」
「……じゃあ、まず名前をつけようか。『ああああ』と『ふるちん』どっちがいい?」
「どっちでもいいですよ、名前で分岐するわけじゃありませんから」
これでも動じないか、それなら……
「起立っ!」
その時、一限目、日本史の藤崎センセが教室に入ってきた。
「礼っ!」
藤崎センセが深々と頭を下げているのが見える。
「着席っ!」
「……」
「……」
見知らぬ生徒と立ったままの生徒が居る状況で授業が進められる程、藤崎センセは強くない。
気まずい沈黙が流れる。さて、どう言い訳をしたものかと、思案している時、「事件」は起こった。
重低音を響かせ、ドアを突き破り、床を踏み砕き、壁をついでのように壊しながら、そいつは教室内になだれ込んできた。
全身に丸太のような筋肉をまとったその怪物は、頭を地面に突きおろし、そうすることで背中に乗せていた人物が見えるようになった。
「や、やあみんな、おはよ」
「省吾っ!?」
そいつは石田省吾、何故かオレと小学校の頃からずっと学校が同じという縁だ。
名前から「ショーゴに戻ってやり直してきたら?」ってよくいじめられている、そんなヤツだが……。
オカルトにかぶれてこんな事ができるようになったのか、怪しい首飾りを下げている。
「みんなはさんざん僕の事をバカにしてたよね、だから今日はその仕返しなんだ」
「省吾、お前、どうやってこんなコトを?その首飾りか?」
「そうだよ、僕には味方なんて居ない、誰も助けてくれない、この世に神様なんていない、だから僕はソイツと契約したんだ」
「そいつって誰だよ?その化け物か?」
「あ?いや、これはパパだよ」
「オジさんかよっ!」
「そうさ、いつもいつも細かいコトばかりがみがみがみがみ言うんだ、だからこうしてもらったんだ」
「……オジさんもかわいそうにな」
「さあ、おしゃべりはおしまいだ、今こそ見せてあげる! 僕の真の力を!」
かけ声に応じてオジさんが暴れ始める。床は砕け、天井は崩れ、生徒がなぎ倒される。
やめろ。せめてオレを巻き込むな。
「ふっ、生徒たちよ、生き残りたければ剣をとって戦え」
声のした方を見てみると、さっきまでオレの机に座ってたあいつが剣をふるって化物に対抗している。
いや、しようとしたが、一人では勝てないと思ったらしく、周囲に武器をばらまいたところのようだ。
素直に手伝ってくれ、って言えよ。
仕方がないので、剣を拾って立ち上がり、オジさんとの間合いを少しずつ詰める。
他のみんなは怪我をしたのか、殆どが動かない。フリをしているだけのヤツもいるが。
加勢してるのはオレだけだけど、微妙に戦いづらそうだ。ありがたい。
「どうです?省吾クンとやら、素直に降参しませんか?勝てませんよ?」
いや、お前負けてたし。
「うっ……くぅっ!ならばっ!!」
言って省吾は鎖につながれた少女を引きずり出す。
「真由美ちゃんっ!」
おいおい、正気か省吾?
「……人質とは卑怯ですよ?」
「ひ、卑怯も何もないだろっ!?……か、彼女を返して欲しければ体育館まで来い、いいなっ!」
言うと省吾は懐を探り……探り……何かボールのようなものを取り出して、床にえいやっ、と叩き付けた。
辺り一面を煙が覆い隠し、煙が晴れた頃には彼らはもういなくなっていた。
「ちっ、逃げられたようですね」
「おもいきり攻撃する隙だらけだったような気がするんだが?」
「人質を取られていては手が出せません」
「いや、人質って……、真由美ちゃん、省吾の妹だけど?」
「……」
「……いもうと、ですって?」
「ああ、妹」
「……なんてことだ」
やっぱり先に指摘した方が良かったんだろうか?
「妹キャラで囚われのヒロイン、おいしい、おいしすぎます。すぐにたすけにいかなくてはっ!」
どうやら、指摘してもしなくても変わらなかったようだ。
「はーせいぜい頑張ってきてくれ、主人公」
こんな騒ぎに首を突っ込むのはバカだ。
オレは、さっき見た真由美ちゃんの、何かを訴えるかのような瞳が、ちょっとひっかかったが、面倒な事はこのヘンタイに押し付けて教室でじっと待っている事にする。
しかし、彼が教室を出て行こうとした時、一人の少女が彼の右腕を掴み、彼を止めた。
「待って……私を置いて、あなたは彼女の所へ行ってしまうの?」
……あんた、誰だっけ?クラスメイトな気だけはするんだが?
「ふっ、……女の嫉妬は見苦しいですよ」
「……嫉妬して、悪いですか?」
「……」
信じたくなかったがどうやら本当に、彼はギャルゲー主人公らしい。
彼らは慕っていたり、何故か冷たくしたりするなど、何人かの女の子を常備しているという話だが……。
少女は彼へ体を寄せてしなだれかかっていく。
「わたし、ずっと遠くからあなたの事を見てたの……でも、あなたは私に見向きもしない」
額を彼の胸元に擦り付けるようにして独白すると、そのまま顔を彼の胸にうずめていき……
「気安く触るな」
「えっ?」
少女がびっくりして顔を上げる。
「私に惚れていいのは美女、美少女だけです。フラグも立ち絵もないあなたのよーな人は、はっきり言って邪魔です」
「じゃ、邪魔」
少女は彼のアイテムではなかったらしい。
それにしても今の言い方は酷くないか?彼女、背景絵だとしても結構かわいいぞ。
「この際だからはっきり言っておきましょう。私にとってはおまえなんか、人間じゃないッ!」
相当メチャクチャな事を堂々と宣告すると、あっさりと彼女を切り倒す。
オレにしてみればおまえのほうが人間じゃない気がする。
……こんな奴に任せておいて、省吾が切り捨てられても、真由美ちゃんがどうこうされても後味が悪い。
「待て、お前には任せられん。オレがたすけに行く」
仕方がないのでオレはこの面倒ごとに首を突っ込む事にした。
言うだけ言って反論の隙を与えず、オレはドアに向かって歩き出し……藤崎センセに止められた。
「待ってよキミ、キミだけでも先生の授業を受けて行かないか?」
はあ?
「……授業どころじゃないでしょ」
「馬鹿な、この私が負ける、というのか!?」
何にだよ。
「いや勝つとか負けるとかの問題じゃなくて……どう考えても非常事態じゃないですか?」
「教室が壊れていても今は授業時間。先生は逆境に打ち克って授業を続けなきゃいけないんだ」
そーいや、生徒指導室なんかで相手が一人になると急に強気になるんだっけ、コイツ。
「めんどーだなぁ……そうだセンセ、ボク、トイレに行ってもいいですか?」
「……ちょっと待て?明らかに嘘だろ?何あからさまに急にトイレだよ?」
「今、急に行きたいんだって、それとも何?先生は生徒を信じないの?生徒に教室で小便しろって言うの?」
「そ、そんな事はない、ないぞ」
「じゃあセンセ、オレ、トイレに行ってもいいよね?」
「……いい、けど……ひとつだけ頼んでもいいか?」
「何を?」
「約束してくれ……必ず、帰ってくるって」
藤崎センセを言いくるめて外へ出たオレはあいつに追いつこうと廊下をダッシュした。
まだそんなに先へは行っていないはず……いた。
「おいっ!そんなに急ぐな!!」
「何を言っているんです?彼女が心配です」
彼はどんどんと走って行く。
「いや、体育館向こうだって」
オレは追いつくために嘘をついた。
「嘘ついても無駄ですよ。彼女のにお……気配がこっちからします」
「……すげーな、ヘンタイ」
「ああっ!気をしっかりと持つんだ!大丈夫、今行く。私は、離れていても君の事は忘れない」
すごすぎるぞ、ヘンタイ。
階段を駆け下りて2階、体育館への渡り廊下へと抜ける廊下に出る。
職員室、事務室、宿直室の前を抜け、角を曲がり……保健室の前に柚園センセが立っていた。
「待ってたわ、あなたたちを」
急に立ち止まったヤツを追い抜いて、あわててオレも足を止めセンセをもう一度よく観察する。
保健の柚園センセ。柔らかな物腰、優しい瞳、暖かみのある声、学内人気No1を誇るセンセだが……確かにいつもと違う妖しいオーラを放っている。近づき過ぎたか?
「ここは……ここは私に任せて先へ行って下さい!」
背後から聞こえたいつになく頼もしい声に、振り返ってオレは硬直した。
ヤツはそんな事を、ズボンに手をかけながら言い放っていやがった。
「待て!脱ぐ気か!?何考えてんだ!!おいっ!」
「何を言っているんです、男子A?先手必勝です!まずは相手を呑んでかかります」
どうやったかは全く不明だが、ヤツはそのままズボンを脱ぎ、空へ投げる。
仁王立ちのまま屹立する。
だがそれでも、いやその程度で動じる柚園センセじゃなかった。
冷ややかにソレを観察し、目を細め、そしてつまらなそうに
「かわいいわね、坊や」
ヤツのズボンが床に落ちた。
「ア、ああ、あれが背景だとは気付きませんでした……男子A、後は任せました」
どうやらかなり効いたようだ。
「分かった、任せろふるちん」
「俺をその名で呼ぶなっ!」
いや、まんまだし……
「さてと……なんかオレが相手しねーといけないみたいだが」
正直あんまり戦いたくない。
「そうよ、本命はキミ……大人って汚いから」
……。ちょっと待て。その目は何?どこ見て、どーして舌舐めずりしてるんだ?
「ねぇ?センセイと、イ・イ・コト。しない?」
「うぉぉぉおおおーーー!!!」
背後から咆哮が聞こえた。
「何故だっ!何故そーなるっ!?」
納得がいかないようでしきりに首を振っている。
「落ち着け女、考えろ思い直すんだ……待て、金か!? 金なら出す! いくらでも出すぞっ!」
血涙を流しながら彼は叫ぶ。丸出して。
……あらゆる意味ですごい。
「……ハァ、あ〜あ、しょーがないか、こんなのが居たんじゃ集中できないわね」
柚園センセは溜め息をつきながら肩をすくめる。
「じゃああなた、いらっしゃい。……はやく済ませたいから全部脱いできてね」
それだけ言うとセンセは保健室の中へと消えて行く。ピンクのカーテンが誘うかのように揺れる。
……ちょっともったいなかったかも。
「ふふふ……お前では……私を倒すことはできん」
ヘンタイが自信満々によくわかんない勝利宣言をしてそのピンクのカーテンへと向かって行く。
宙に舞っていたヤツのシャツが床に舞い落ちる。
頑張れよ、というか、とりあえず生きて帰れ。いや、ここで死んだ方が面倒がない気がするが……
「ぐぎゃぁああーー」
ピンクのカーテンが赤く染まる。
「ゴプ、ゴプ、ゴプ、ゴプァァアアアーーー」
「きゃー、いやっ!何?これでも動くの?どこにこんな力が……!?」
どうなってるのか謎だが凄いらしい。
「ぐわっ、げぼっ、うごぉあ」
「八つ裂きにしても再生するなんて……バンパイア並み?」
今の一瞬で八つ裂きにしたのか?
何だか知らないがどっちもすごいぞ。がんばれ。
ゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッ……
木を削るような音が鳴り響き
「むぅごぁああああああーーーー」
ひときわ大きな絶叫が重なる。成仏したかヘンタイ?
「ふぅ……」
ヤツをキャスター付きの寝台に昆虫標本のように数百本の注射器で釘付けにして、センセは出てきた。
「はい、これ」
「あ、どうも……って、いいのか?オレを倒さなくて?」
「いいのよ、別に。どちらか片方を脱落させる、って約束は果たしたから」
「……脱落って、オレも昆虫標本にするつもりだったのか?」
「ふふ、知りたい?でもそれは、ヒ・ミ・ツ。女は神秘の生き物なのよ、謎がなくちゃ魅力も半減でしょ?」
そしてセンセは、知りたければ帰りに寄りなさいと耳打ちしてから、ウィンクした。
オレは帰りに寄る事を心に誓って、体育館へと先を急いだ。
「おい、ヘンタイ、気分はどうだ?大丈夫か?」
「大丈夫、最高の気分だ。いい胸をしていた。フトモモも柔らかく……次は間違えずにフラグを立てて……脱がせる」
「……あんた、すげぇな……地雷ゲーでも絵がよければフルコンプするバカゲーマーだろ?」
「ありがとう男子A、最高のほめ言葉だよ」
「いくぞ、ヘンタイ」
「ちょっと待って下さい、もう、殆ど動けるんですが」
「急ぐんだろ?」
体育館のドアに手をかけ、一気に開く。
と、同時に奇襲防止のために中へと寝台を押し込んだ。
ガーーーーーーーーーーー……ガシャン
安全を確認し、続いてオレが中へと入る。
左右、上を警戒し……何事もない。
「やれやれ、乱暴ですね……、と、彼女は?」
体育館正面、ステージの上に真由美ちゃんがぽつんと立っていて……省吾がその下に倒れている。
しまった、ヤツを近づけちまった。
「無事でしたか?妹っ!」
「逃げろ!真由美ちゃん!!」
ふたりの声が重なった。
「もう大丈夫だよ、お兄ちゃん倒しちゃったし」
まあ、省吾より真由美ちゃんの方が強いから当然の結果だけど。
「いや、省吾はともかく、オジさんは?」
「そうだ妹。あのバケモノはどうしました?」
「パパ?パパはいろいろとうるさかったんだ、私にも。だからね、だからパパは…」
真由美ちゃんがにっこりと笑う。
「パパは星になったのよ」
「妹……あなたは……」
「いいでしょ?真由美パパ嫌いだったんだもん」
「……」
「それからね、あなたが邪魔しても、このまま世界セーフクとかしちゃうつもりだよ、あたし」
「あなた……認めません! 認めせんよっ!?私は!!」
「なんで?いいじゃん……ね、あなたも、ヒーローサイドやめて、真由美のコト、手伝ってくれない?」
「妹……これが最後のチャンスです。あなたに一つだけ問います」
「何?」
「あなたは私の事を「あなた」と呼ぶんですか?」
「……お兄ちゃんも、ヒーローサイドやめて、真由美のコト、手伝ってくれない?」
「この命、燃え尽きるまで!」
今すぐ尽きろ。
「オレは……君を止めるよ、真由美ちゃん」
「ふっ、貴様の相手はこの私だ!真由美パパ嫌いだったんだもん……いいっ!」
「無節操なヘンタイ野郎は退いてろ!」
「私の妹に手を出すヤツに容赦はしない……何があろうと、君だけは守るよ」
「お前は主人公じゃない、脇役でもない、お前なんか部外者だ!部外者は部外者らしく、モニターの向こうで萌えてろっ!」
「ふっ、言ってくれるな完全無欠の脇役っ!貴様ごときの設定もない剣でこの私のステータス+17の剣に勝てると?」
いつの間にかマジックで+17とか書いているし……言ってろ、勝つのはオレだ。
床を蹴って正面から切りかかる。薄笑いを浮かべ、特殊効果っぽい残像を周囲に散らしながら奴が迎え撃つ。うるさい。
一閃、オレの剣がすべてを断ち切った。
「どうして……私は、主人公のはずなのに……」
まだ世迷いごとを続けているバカを放っておいて、オレは真由美ちゃんへ向き直り、対峙する。
「何でたすけてくれたんだ、真由美ちゃん?」
オレはあいつの全ての攻撃を防いでくれる力を予想していた。
そうでなければおかしい、オレが教室で無事だったのも、彼女の瞳が意味するものも。
「別に、私その人、信じられないから……ううん、誓ったから、もう誰も信じない……!って」
嘘だっ
目に見える軌跡でオレに迫る衝撃波をかわしながら彼女を観察する。
嘘だ。彼女はオレを倒せるはず、簡単にオレを倒してしまえるはず。
壁を、柱を、演出だけは派手に衝撃波が破壊していく。
オレが無事なのは彼女の好意だ。それは間違いない。
周囲が激しく爆発している、が、オレには破片さえあたらない。
だが……どうやったらオレは彼女に勝てる?
何度も衝撃波をかわしているうちにオレの足がもつれてくる。
瓦礫が、余波が、オレをかすめるようになる。どうすれば……
床に転がる残骸に足を滑らせる。体が大きく傾き、天地がひっくり返ると、オレは床に倒れた。
「……どうしたの?死んじゃってないよね?……もう、おしまい?」
真由美ちゃんが近くまで歩いてくる。
「真由美ちゃん、やめるんだ、真由美ちゃん、だって、オレが……」
「なぁに?なにか言いたい事があるの?」
真由美ちゃん、キミは聞きたい事があるはずだ、だから聞かせてあげる。
「真由美ちゃん、オレはね……」
だからもっと近づいて、この小さな声が聞こえるくらい側まで近づいて聞いて。
「オレ、ずっと前から、いや、キミのコト、生まれる前から愛してたんだよ」
「!!」
真由美ちゃんの動きが止まった。完全に。至近距離で。
……隙ありっ
失神させた真由美ちゃんから見るからに怪しい首飾りを奪ってから、オレは省吾を掘り出した。
「おいっ、起きろ、省吾」
「んっ、うう〜ん……」
目を覚ました省吾を思い切り睨みつける。
「はっ!ここはどこ? 私は誰?」
「この期に及んでしらばっくれても無駄だぞ」
「……」
「……」
「……仕方なかったんだ、他に方法が、ああするしかなかったんだ、信じてくれよー」
「まったく信じられないし、同情の余地もない。とにかくさっさと元に戻せ」
「元に戻せ?そんなのできないよー」
「できない?本当に?」
「本当に」
「……じゃ、どーすんだよ、この惨状」
「わ、わ、ごめんなさい、ごめん、怒らないでよー」
「謝るな、何とかしろっ!」
オレは省吾のむなぐらを掴んで乱暴にゆする。本当に方法はないのか?
「ぼ、僕は彼と長期契約しただけだから……」
「彼って誰だ?悪魔か?魔王か?どこだ?どこにそいつは居るんだ!?」
震えながら省吾が上げた指の先に、そいつは居た。
「そうですか……すると、フラグはあそこにあったはずですね……」
「……ヘンタイ、お前、悪魔なのか?」
「悪魔?いえ、私はこの世界の主人公ですが?」
「この際よび方はどうでもいい。このしょうもない世界をコントロールするのはお前か?」
「ええそうですよ。このステキな世界で私たちの冒険はこれからも続くんです、これからも、ずっと……」
「これで、終わりだっ!というか終わってくれ!!こんなの何回もくりかえさせるつもりか?お前はっ!」
「後364回ほど……」
「一年かっ!?年契約なのかこれは!?……待て、せめてオレを巻き込むなっ!オレは脇役だろ?男子Aなんだろ?」
「……これが……運命なんです、友也くん」
「こらっ!オレを名前で呼ぶな!勝手に重要キャラにしようとするなッ!!」
明日もまた今日が繰り返す。平穏な人生解放まで、あと364日……たぶん。
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