いよいよ暦の転換点にやってまいりました。 新井素子プロフィール (新井素子研究会より)
「なんでだろう? なんで小説には、おにいさんおねえさんの世代の作家がいないんだろう?」 |
(C)集英社 1977 『さようならアルルカン』 著 氷室冴子 (C)集英社 1978 『あたしの中の……』 著 新井素子 →bk1 →ama →楽天 |
氷室さんが「さようならアルルカン」で小説「ジュニア」の第10回青春小説新人賞に佳作入選したのと、新井さんの「あたしの中の……」が第1回奇想天外新人賞に入選したのは、実にまったく同じ、1977年のできごとでした。(月日まではよー知りませんが) いきなり「同世代」です。おにいさん、おねえさんではなくて。
実はわたしは奇想天外は読んでなかったので、イッコ下に「17歳の美人作家(あざといまでにソフトフォーカスにした写真を載せてたよね、ねぇ、素子?)」が誕生したということは、ちょっとあとになるまで知らなかった。 小学校六年生のテストの時間、うっかりケシゴムをおとしてしまった気の弱い少女、隣の席の男子に迷惑をかけまいとしてなんとか自分で拾おうとして挙動不審な行動をとったがために、カンニングを疑われる。ものがたりの書き手・語り手である「私」は、彼女をかばいたいと思いながら何もできない。声にならない。 |
すばらしいでしょう? 過不足がなく自然で現代的(当時もいまも)のこの文体。主人公(ちなみに柳沢真琴さまとおっしゃいます)の登場の鮮やかさ。語り手(いわばワトソン役)が、主人公(ホームズ役)にほれ込んでしまうこのエピソードのさりげなさ。リアルさ。
ちなみに物語は、意外にも、吉屋信子的な「エス」な方向にはすすみません。有象無象の級友の中でつねに凛々しいトリックスターだったはずの真琴が、年齢をかさねるにつれ、 |
ハーレクイン ハーレクイン・エンタープライズ社の出すロマンス小説のことを指す。膨大な量が出されている。 参考:ハーレクインの勧め (まきハウス) |
それにしても、あーた。「アルルカン」ですぜ? 時は1977年なのですよ。ハーレクインロマンスの日本上陸が1981年なんですから(ハーレクインとアルルカンは同じ単語の英語読みとフランス読み、ねんのため)日本中でいったいどれだけのひとがこの単語の意味、ニュアンス、その他なんだかんだを知っていたでしょう?
か……かっこいいーーーー!
これこそが、わたしの読みたかった種類のおはなしだ。 |
ディヴィッド・ハミルトン David Hamilton 写真家。その作品の対象はつねに少女。映画『ビリティス』は彼の初監督作品。 |
|
もちろんティーンは「性の目覚める頃」です。なんかこうモヤモヤとしはじめるころだし、好奇心もムクムクするころです。
わたしはロマンチックなとこはロマンチックなんでが、実際的なとこはクールに実際的な人間なので、初潮をむかえてわずか一年未満の中学一年のころからもう(たまさか夏休みにプールにいかなきゃならなかったときになっちゃったのでいきなり必要にせまられて)生理の時には、タンパックスタンポンを愛用してました。めちゃくちゃ多い日って、ナプキンだけだと、モレるしさぁ。タンポンとナプキンを併用すると、長時間とりかえなくても血まみれの恥ずかしい思いをしなくてもすむ。こんな便利なもん、みなさんにもぜひオススメしたいと、同世代の友人たち何人もに実物を渡しては、何度も何度も拒絶されました。 |
なんだか話がおそろしく下世話なほうにまいりましたが、ようするに、われわれの世代の性意識はまだまだ「罪悪感」とか「恐怖感」とかに彩られていたのでございます。ハハオヤ世代より上だと、もっとコワい場合もある。 生理中だけどヤッちゃったらラブホのシーツがすごくてカレシにひかれちゃったよー、なんて、な告白?をストリート系ティーン雑誌の読者欄にバンバン投稿しちゃう昨今のティーンのみなさんからすると「マジ?」「ありえない」なんじゃないでしょうか。 |
団鬼六 SM小説の巨匠。代表作は「花と蛇」。将棋に造詣が深いことでも知られる。 『奇譚クラブ』 戦後のアブノーマル三大雑誌のひとつ。昭和27年創刊、昭和50年廃刊。 『家畜人ヤプー』 著 沼正三 都市出版社 (1970) 一大マゾヒズム小説。戦後最大の奇書と呼ばれる。 (C)ピエ・ブックス 『きんぎょ』 編集 高岡一弥 写真 久留幸子 ピエ・ブックス (2003) 岡本かの子『金魚繚乱』をはじめ、様々な種類の金魚をビジュアルで紹介する。さらには伊万里の皿の金魚、染付火鉢の金魚、子供のゆかたの金魚、ブリキ製玩具の金魚まで、金魚の魅力が詰まった一冊。 →bk1 →ama →楽天 |
でもですね、わしらの頃でも、ゲイジュツの世界ってのは、当然のことながらエロスに満ちてたんですね。 こんなこというと氷室さんは怒るかもしれませんが、「アルルカン」の少女同士の関係性は、けっしてレズではない。肉体関係なんか皆無です。しかし、非常に抑制のきいた、理知的で濃厚なエロスです。たいへん美しく、よんでいてキモチ悪くならない、こころがぽわぁっと幸福になるようなエロス。 「なるほど、ここに、ニーズがあるなぁ!」
と、わたしは思いました。 実際にその年齢に近いからこそかける、わたしたちの世代のキャラクターの、ヒリヒリするような日常。こーゆーのもっと読みたい! そう思いましたです。この時点では、自分で書こうとはまだ思ってません。
「こういう世代の作家がもっと出てきてくれればいいのに!」そう思った。
そう思ったのはわたしだけではなかった。 |
庄司薫 『赤頭巾ちゃん気をつけて』で第61回芥川賞受賞。『さよなら怪傑黒頭巾』『白鳥の歌なんか聞こえない』『ぼくの大好きな青髭』など話題作を続出。また主人公は“庄司薫”である。
小林信彦 作家、コラムニスト。『オヨヨ』シリーズや『唐獅子』シリーズなどで高い評価を得、多くの著作が芥川賞・直木賞候補となっている。 星新一 SFショートショート作家。『ボッコちゃん』など多数。 (C)講談社 1974 『アルキメデスは手を汚さない』 著 小峰元 →bk1 →ama →楽天 (C)講談社 1979 『ぼくらの時代』 著 栗本薫 →bk1 →ama →楽天 金井美恵子 『愛の生活』で第3回太宰治賞次席、『プラトン的恋愛』で第7回泉鏡花文学賞、など。 (C)講談社 (1979) 『桃尻娘』 著 橋本治 (C)早川書房 1999 『アルジャーノンに花束を』 著 ダニエル・キイス →bk1 →ama →楽天 |
クラスのほかのこたちが校庭でバレーボールかなんかしているあいだ、教室や、あたたかい日ならおおきなニレの木かなんかの陰で、文庫本を開いているような。
ちなみにわたしは、小林信彦さんの『オヨヨ大統領』とか、星新一さまのショートショートとか、小峰元さんの『アルキメデスは手を汚さない』とか、栗本薫先生の『ぼくらの時代』とか、わりと「軽めの」「文学臭の薄いもの」が好きだったんですが、あーそうそう、唯一の例外として、新潮文庫の金井美恵子さまの初期作品のたぐいには平身低頭傾倒して、何度も何度も読みかえして影響うけまくりましたね。
それと……エスエフ。 よーするにわたしはいわゆる典型的な「文学少女」ではなかったのですが、(どっちかというと、サブカルチャー少女ですね)氷室さんの端正さには、ほんとうに感動しました。
そして……ほんの三つ上のひとにこれだけのことができるなら、ひょっとすると……と、すこしずつ、すこしずつ、思い始めたわけです。
なにしろ少女マンガ家たちは早熟で、十代デビューあたりまえでしたから。 うーむ、新井さんのことまで言わないうちにヒルメシの時間になってしまったぞ。
それと、こないだの分への補足。
栗本薫・中島梓先生と、落合恵子さんです。
というわけで、小ジュがコバルトに変革していく怒涛の時代を、フロントランナーとして疾走した……というより、むしろ、ブルドーザーのように開拓して、あとから進むものたちのためのコース設定をしてくださったのが氷室さんであり、
つづく。
原稿受取日 2004.3.23
公開日 2004.4.19 |